理事長挨拶

公益社団法人日本臨床腫瘍学会
理事長 石岡 千加史
この度、2022年度の社員総会の議を経て公益社団法人日本臨床腫瘍学会の理事長に再任されました。2期目の就任にあたり皆様に御挨拶申し上げます。
日本臨床腫瘍学会は1993年に研究会として発足し、2004年から特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会として正式に学会活動をスタートしました。現在、約8,900名の会員を擁する日本医学会分科会の1つです。2015年には公益社団法人日本臨床腫瘍学会として組織を刷新し、現在に至るまで臨床腫瘍学を中心とする学術とがん医療の推進を目的とする公益事業を幅広く社会に展開し活動してまいりました。とりわけ、会員を含む医療従事者や医療機関に対するがん医療の普及・啓発、専門医養成を含む医療従事者の教育によるがん医療水準の向上への貢献、会員の学術活動の支援による新しいがん医療の開発への貢献、がんの診療や研究に関する正しい情報発信による市民への啓発、さらに、海外の関連学会との連携などによる国際社会におけるがんの診療や研究への貢献などの活動を通じて、がん患者さんのQOLの向上や生存期間の延長に寄与し、がんの征圧を目標としてきました。これからも、医療や医学の発展と社会情勢の変化に迅速に対応して当学会の目標や事業を見直し、広く患者さんや地域社会の要請に継続的に応えることができるアジアを代表する学術団体であることを目指してまいります。
第1期の就任時に、会員数の増加、がん薬物療法専門医の増加、がん医療の普及・啓発の推進、さらに、学術・教育分野での国際化推進と次世代がん医療創出・普及のための研究・教育機会の提供を目標に掲げ、理事会を中心に様々な活動に取り組んで参りました。この間、がん医療の急速な進展に加え、これまでの増加傾向が頭打ちとなった会員数、新専門医制度に移行する専門医、ジェンダーバランスなどの社会的要請など、対応すべき新たな課題が生じています。また、新型コロナウイルス感染症の拡大により、会員の皆様はもとより当学会の学術、教育ならびに国際活動に大きな影響がありました。
そこで第2期目は1.魅力ある学術・教育企画とその情報発信による会員増(目標1万人)、2.学術・教育分野での国際化推進と未来型がん医療創出・普及のため他領域との連携を含む組織強化、3.腫瘍内科医を目指す医学生・研修医や女性会員のキャリアパス支援、4.国民への迅速且つ正確な情報提供と行政への医学・医療分野での積極的提言、等に理事、協議員や専門医の協力を得て注力します 。
これまで当学会は、会員の皆様のみならず、患者会、企業や関連省庁等多くの方からの御協力や御支援により学会組織を発展させてまいりました。今後とも関係各位におかれましては当学会の活動に御理解、御協力を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
1.医療従事者に対するがん医療の普及・啓発
学会の大きな目的として、学術集会を通して専門領域の医療・医学の進歩や課題を発表・議論し、がん医療の普及・啓発に寄与することが挙げられます。
当学会は年1回学術集会を開催し、多くの演題発表の機会と参加者による活発な討論の場を提供するとともに、学術的または教育的なシンポジウム等を数多く企画し、専門的知識の向上の機会を提供しています。2021年2月18~21日に第18回学術集会(西尾和人会長)では約6,300名、2022年2月17~19日に第19回学術集会(大江裕一郎会長)では約6,200名が参加し、新型コロナ感染症の流行の中にもかかわらず多くの参加者がありました。なお、2023年3月16~18日に第20回学術集会(馬場英司会長)を福岡で開催予定です。多くの皆様の御参加を心からお待ちしております。
また、当学会ではがん診療ガイドラインやガイダンスの作成に取り組んでおり、多くのがん医療従事者の治療指針として寄与してきました。これらは日本のがん医療水準を高めるためには欠かせないものであり、今後もこれらのガイドラインやガイダンスの改訂に加え、必要に応じて新しいガイドラインの作成に取り組みます。
2.専門医養成を含む医療従事者の教育
当学会の大きな事業に、がん薬物療法専門医制度があります。がん薬物療法専門医は主に抗がん剤を中心とする治療(がん薬物療法)に加えて、がん患者の合併症の治療、緩和ケアや集学的治療(手術、放射線や抗がん剤の組み合わせ)やチーム医療を広く専門的に行える専門医です。2022年4月1日時点で1,604名が認定され、主に全国のがん診療連携拠点病院で診療に従事しています。
がん薬物療法専門医は、高齢化社会を迎えたわが国において増え続けるがん患者の治療の専門医として極めてニーズが高い専門医です。また、最近ではがん遺伝子パネル検査の保険収載に伴い、がんゲノム医療をはじめとする個別化がん医療の中心的な専門医として益々ニーズが高まっています。この他、がん薬物療法専門医やその取得を目指す医師およびがん診療に携わるその他の医療従事者向けに、日本で唯一の臨床腫瘍学の教科書である新臨床腫瘍学改訂第6版を刊行しており,現在は2024年の次版発行に向けて編集作業を進めています。
また、教育セミナーAおよびBセッションの年次開催、がん治療の最新情報を提供する米国臨床腫瘍学会(ASCO)との共催でBest of ASCO in Japanなど、多数のセミナーや研修会を開催しております。
3.臨床腫瘍学を中心とする学術・研究活動の推進
新しい診断や治療方法(診断薬や治療薬を含む)を開発することは、がん医療の進歩に欠かせません。当学会は会員の学術・研究活動を支援することにより、臨床腫瘍学分野の発展とがん医療の向上を目指します。また、正会員は国際学会である欧州臨床腫瘍学会(ESMO)が発刊する世界トップクラスの臨床腫瘍学関連雑誌、Annals of Oncology(当学会の機関誌を兼ねる)から最新の学術成果を優先購読が可能です。会員のみならず広くがん研究者の学術活動を推進する活動を行っています。
4.市民や社会への正しい情報発信
正しいがん医療の実現には、正しい情報の発信のために市民への啓発活動が欠かせません。当学会では、学術集会時などに、患者会など医療従事者以外の参加を支援するとともに、定期的に市民公開講座を実施しています。また、社会への情報発信ために学術集会前に報道関係者を招いてプレスセミナーを開催するなど、最新のがん医療の普及・啓発に積極的に取り組んでいます。
5.国際活動
新しい治療薬や診断薬の開発が国際化した今日、がん医療・臨床腫瘍学の向上には国際連携が欠かせません。当学会は、ASCO、ESMOや、アジア・オセアニア地域の関連学会と連携を深め、学術集会時には各学会・地域との合同シンポジウムやビジネス会議を開催し、国際的な視点から最新のがん医療やその課題について情報を共有しています。また、ASCOとは共催でBest of ASCO in Japanの開催、ESMOとは、ESMOの診療ガイドラインのアジア版コンセンサス・ガイドラインを他のアジア諸国の関連学会と協力して発刊しているほか、Best of ESMO in Japanを開催します。今後は、学術・教育的な連携に留まらず、アジア地域のがん医療水準の向上に寄与する活動を検討中です。
参考:当学会の現在のビジョン&ミッション