- 会員の皆さまへ
理事長レター Vol.23
2025年9月19日の日本専門医機構第6期第16回理事会でがん薬物療法領域が正式にサブスペシャルティ領域として承認されました。
日本臨床腫瘍学会では2006年に47名のがん薬物療法専門医を認定して以来、2025年までに1,825名の専門医を認定してきました。がん薬物療法を行っている医師を専門医として追認するのではなく、当初よりセミナー等の教育を経た上で厳格な試験で専門医を認定してきました。主体的にがん薬物療法に携わっていることを確認するために面接試験も行ってきました。同一の臓器であっても良性疾患とがんでは治療の考え方が異なります。がん薬物療法ではがん種が違っても治療のコンセプトは同じです。各臓器の良性疾患も含めてトレーニングを積んだ後に特定の臓器のがん診療を行うよりも、幅広いがん種の薬物療法のトレーニングを積んだ後に専門性を持つことにより、合理的な診療が可能となります。そのため、幅広いがんの治療を修得したことを前提としてがん薬物療法専門医を認定してきました。これが特定の臓器のがんのみを扱う旧態然としたトレーニングしか積んでいない人からは難しい試験だという声もありました。
しかし、最近開発される抗がん薬は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬がほとんどですが、免疫チェックポイント阻害薬はがん種を越えて使用され、副作用管理はがん種に寄らず共通です。分子標的薬の中にはがん種横断的に遺伝子変化に基づいて開発され承認されるようになってきました。がん薬物療法はがん種横断的治療です。がん薬物療法専門医の重要性は益々増しています。
現在、厚生労働省では2040年を見据えたがん診療体制の在り方を検討しています。その根底には、今後日本の人口が減少することと、それ以上に外科特に消化器外科の医師数が減少するため、がん診療の均てん化のみならず持続可能ながん医療提供のために集約化を推進する必要があるという危機感があります。ところが、日本の人口は減少してもがんが多い高齢者は増え、がん薬物療法の対象となる患者は増えます。がん薬物療法ができる病院を集約化すると患者さんに不便を強いるため、がん薬物療法は集約する必要はないという考え方もあります。
しかし、免疫チェックポイント阻害薬による重篤なirAEや死亡は症例数が多い病院ほど低率であることが示されています。施設を集約化せずに、各施設での抗悪性腫瘍薬治療を専門医に集約化すれば、患者さんに不便を強いることなく治療が向上することが期待できます。幅広いがんの薬物療法に対応できるがん薬物療法専門医の重要性が理解できます。
日本臨床腫瘍学会が専門医制度を立ち上げた当初は、米国のMedical Oncologyの専門医数と、米国とわが国の人口比から、わが国で必要とされる専門医数は3,000~4,000名と算出しました。現在の認定ペースが続けば2040年には約3,200名を認定できることになります。今回、新専門医制度において、がん薬物療法領域が日本専門医機構にサブスペシャルティとして正式に認定されたことにより、腫瘍内科を志望する若手医師が増え、必要な専門医数をより早期に達成できるものと期待しています。ぜひ会員の皆様には仲間となる若手医師を増やしていただくようご尽力ください。現在は、がん専門病院や都道府県がん診療連携拠点病院にがん薬物療法専門医の29%が在籍しています。地域がん診療連携拠点病院には一施設当たり平均2.3名の専門医が在籍していますが、今後はこれらの病院で活躍するがん薬物療法専門医が増え、適正ながん薬物療法が普及することを願っています。
日本臨床腫瘍学会の悲願ともいえるがん薬物療法領域のサブスペシャルティとしての正式認定は、がん薬物療法に携わる多くの医師の努力と、学会員の皆さまの長年にわたるご支援の賜物であります。心より感謝申し上げます。
2025年(令和7年)12月12日
公益社団法人 日本臨床腫瘍学会
理事長 南 博信









