ごあいさつ


2018年9月26日改訂


根治切除不能な進行性甲状腺癌に対する分子標的薬治療の適応患者選択の指針

甲状腺癌薬物療法委員会
日本核医学会

 現在、本邦で切除不能進行性甲状腺癌に適応をもつ分子標的薬がソラフェニブ、レンバチニブ、バンデタニブの3剤になりました。進行再発甲状腺癌患者にとっては大きな福音ですが、各薬剤が有効とされる組織型が異なることや特徴的な有害事象もあることから、これらの薬剤を適正に使用することが重要です。また、分子標的薬の適正使用にあたっては、日本における甲状腺癌の臨床像の特徴と、分子標的薬使用による患者のベネフィットとリスクを十分に考慮した適応患者選択が肝要です。
 本委員会では、「分化型甲状腺癌」に対する分子標的薬の適応となる患者や適切な治療開始時期の選択の一助となることを目的に、2014年に患者選択のための指針を公開致しました。今回、「未分化癌」にはレンバチニブが、「髄様癌」にはバンデタニブ、レンバチニブ、ソラフェニブが保険収載され使用可能となったことをうけ、本指針を改訂いたしました。「分化型甲状腺癌」で分子標的薬治療の適応となるのは、放射性ヨウ素治療抵抗性で進行性である患者で、甲状腺全摘術が行われていることが前提であるのは改訂前と同様です。今後関連学会との討議を重ね、実際に使用されている現場からのご意見も承って、随時改訂を行う予定です。

本指針が対象とする病理組織型について

 本指針は、分化型甲状腺癌 [乳頭癌(特殊型を含む)、濾胞癌(特殊型を含む)、及び低分化癌] 、髄様癌、未分化癌を対象としている

分化型甲状腺癌

1.分子標的薬が適応となる分化型甲状腺癌について

 ソラフェニブ、レンバチニブともに放射性ヨウ素治療(RAI)抵抗性の局所進行または転移性の分化型甲状腺癌が適応になり、放射性ヨウ素治療抵抗性が確認されていない分化型甲状腺癌に対する有効性は確立されていない。

2.放射性ヨウ素治療(RAI)抵抗性の定義について [1]

 甲状腺全摘後の患者で、1-2週間の厳密なヨウ素制限を行いTSH値が十分に上昇した状態aaで放射性ヨウ素(I-131)が投与され、かつ、下記のいずれかに該当する場合には、放射性ヨウ素抵抗性と判断される。

(1)全身シンチグラムで放射性ヨウ素の集積が全く認められないか、極めて淡い集積しか示さない病変b が存在する。

(2)放射性ヨウ素の集積が良好であるにも関わらず、3-4回の放射性ヨウ素治療後c に増大あるいは増加を示す病変が存在する。

a: 放射性ヨウ素治療当日のTSH値は30(μU/ml)が目安である。

b: 全身シンチの撮影の際には可能な限りSPECT/CTを追加撮影する。病変への集積判定は、核医学専門医ないし放射線診断専門医が行うことが望ましい。コンサルテーションが必要な場合は日本核医学会事務局(〒113-0021 東京都文京区本駒込2-28-45 日本アイソトープ協会本館3階、jsnm@mtj.biglobe.ne.jp、03-3947-0976 へ連絡すること。

c: DECISION試験(ソラフェニブ)[2]、SELECT試験(レンバチニブ)[3]ともに、累積線量で22.2GBq(600mCi)以上の放射性ヨウ素治療を受けているにもかかわらず、進行が認められる場合も放射性ヨウ素抵抗性としている。欧米では遠隔転移の治療には200mCiないしそれ以上の量を投与する事が多いので、この数字になったと考えられるが、日本では投与量が少ない傾向にあるので600mCiという数字にはこだわる必要はない。しかし、通常は放射性ヨウ素治療による腫瘍の縮小効果は2-3回までに発現する事が多く、それ以上の治療の反復により劇的に効果が見られる事はあまり経験される事ではないので、3-4回という回数を一つの目安にすると良い。しかし、国内にはそれを超えて放射性ヨウ素治療が行われ、病状安定が維持されていると考えられる症例も存在するため、放射性ヨウ素治療の回数を一律に制限するものではない。

3.分子標的薬治療の条件としての進行性について

 DECISION試験(ソラフェニブ)では、過去14ヵ月以内に病勢進行が確認された症例が、SELECT試験(レンバチニブ)では、過去12ヶ月以内に病勢進行が認められた症例が登録された。これらの試験と本邦における放射性ヨウ素治療の状況を鑑みると、分子標的薬の適応患者としては、少なくとも過去2年以内に画像診断や血中サイログロブリン値などで病勢進行が確認された症例を対象とすべきである[4]
一方、放射性ヨウ素抵抗性を示す患者の中には、比較的良好な予後が期待され、高いQOLを維持している患者が存在する[5] 。下記のいずれかもしくは両方に示す場合は、分子標的薬の導入時期としては適切ではないと考えられる。このような患者に対しては、経過観察あるいは他の治療法を優先することが望ましい。

(1)外科的切除、外照射療法が可能な場合

(2)非進行例(2年以上不変)・緩徐な進行例

4.甲状腺全摘が施行されていない患者について

 放射性ヨウ素治療を行う際には甲状腺が全摘されていることが重要な前提になる。甲状腺が全摘されていない患者で残存甲状腺の切除を安全に施行し得る場合には、残存する甲状腺を切除した後に、病巣の放射性ヨウ素の取り込みを評価するのが原則である。
 しかし、何らかの理由で残存甲状腺の切除が困難な患者では、切除の代わりに50-100mCiの放射性ヨウ素を投与して残存甲状腺組織を除去する事も可能である。この場合に頸部腫脹や喉頭浮腫を来し生命に関わる事があるので、放射性ヨウ素治療実施担当医師と十分な相談の上で決定すべきである。これらの患者において、その後に放射性ヨウ素を投与して全身シンチとSPECT/CTを撮影し、病巣への放射性ヨウ素の集積がみられない場合は放射性ヨウ素抵抗性と判断する。

5.放射性ヨウ素治療未実施患者への分子標的薬治療の適応について

(1)放射性ヨウ素治療未実施患者に対する分子標的薬治療の使用
 放射性ヨウ素治療未実施で放射性ヨウ素抵抗性が確認されていない分化型甲状腺癌に対する分子標的薬の有効性および安全性は確立していないため、このような症例に分子標的薬は使用すべきではない。また、放射性ヨウ素治療待機中の患者に分子標的薬を用いる事は適切でない。
 放射性ヨウ素抵抗性の確認は、治療量(100-150mCi)の放射性ヨウ素を投与して行うことが原則であるが、放射性ヨウ素治療未実施の患者で、病状の急速な進行などのやむを得ない事情がある場合には、診断シンチグラフィで放射性ヨウ素の取り込みを確認することも許容される。放射性ヨウ素治療未実施であっても、放射性ヨウ素の取り込みが無いことが確認された場合には放射性ヨウ素抵抗性と判断され、分子標的薬治療の適応となる。 

(2)甲状腺全摘は施行されているが、何らかの事情で放射性ヨウ素治療が困難な場合や、手術が不可能で甲状腺が残存しており、放射性ヨウ素の転移病巣への集積の評価ができない場合
 患者側に放射線治療病室への収容が困難な要因があり、かつ、病勢の進行が明確で他に方法が無い場合や、甲状腺手術が不可能な場合には、分子標的薬による治療を考慮する事も一案であるが、今後の検討課題である。現状において分子標的薬をこのような症例に用いることは控えるべきであり、臨床試験での検証が勧められる。

【補足】

 DECISION試験(ソラフェニブ)、SELECT試験(レンバチニブ)では、それぞれ以下のような患者が放射性ヨウ素治療抵抗性として登録された[2,3]

【DECISION試験(ソラフェニブ)】

  • RECIST基準に基づいた標的病変を有し、ヨウ素摂取が制限され、十分なTSH上昇または遺伝子組み換えヒトTSH刺激下で実施された放射性ヨウ素スキャン検査(診断的または治療的な全身スキャン検査)において、その標的病変に放射性ヨウ素の取り込みの認められない患者
  • 放射性ヨウ素取り込み能のある腫瘍を有している患者でも、以下のいずれかの基準を満たす場合には組入れ可能とした。
    • 試験組入れ前16ヵ月以内に3.7GBq(100mCi)以上の放射性ヨウ素治療(ヨウ素摂取制限下で、甲状腺ホルモン剤の投与を中止することにより内因性TSHの分泌を誘導した状態、あるいはrhTSH剤を投与後に実施)を施行しており、その放射性ヨウ素治療にもかかわらず、標的病変における病勢進行が認められた患者。
    • 直前の放射性ヨウ素治療が16ヵ月より以前に行われている場合であっても、複数回の放射性ヨウ素治療歴があり、かつ、直近の2回の放射性ヨウ素治療〔それぞれ3.7GBq(100mCi)以上で、間隔が16ヵ月以内〕の後、病勢進行が認められた患者。
    • 累積線量で22.2GBq (600mCi)以上の放射性ヨウ素治療を受けている患者。

【SELECT試験(レンバチニブ)】

  • いずれかの放射性ヨウ素検査で放射性ヨウ素の取り込みが認められない測定可能病変を1つ以上有する。
  • 放射性ヨウ素治療前または治療後の検査で、放射性ヨウ素の取り込みが認められたにも関わらず、放射性ヨウ素治療後の12ヶ月以内に病勢進行が認められた、切除不能な測定可能病変を1つ以上有する患者。
  • 最終の放射性ヨウ素治療が登録の6ヶ月以上前であり、放射性ヨウ素の累積線量が22.2GBq (600mCi)を超えている患者。

甲状腺未分化癌および甲状腺髄様癌

甲状腺癌のうち、分化癌以外の組織型にも分子標的薬治療が保険収載された。未分化癌にはレンバチニブ[6]が、髄様癌にはソラフェニブ、レンバチニブ、バンデタニブが認可されたd。両組織型とも放射性ヨウ素治療が無効であるほか、分化癌と比較して、臨床的に特異な性格を有しているため分子標的薬治療の際に注意が必要である。

d. 髄様癌に対する3剤のうち、国際第3相試験が行われたのはバンデタニブのみである(ZETA試験)[7]。ただしこの試験に日本は参加していない。

1.未分化癌

 未分化癌は分化癌に比して浸潤能が強く、周辺臓器への浸潤がしばしば認められる。根治切除可能な場合(Stage IVAおよびStage IVBの一部)には、手術が第一選択となるが、そのような症例は多くない。根治切除不能でほかに適当と考えられる治療法がない場合、進行性の遠隔転移などに対して分子標的薬投与が考慮される。分子標的薬治療が奏効すると浸潤臓器の破綻をきたすことがあり、皮膚や気管・食道などの瘻孔形成や頸動脈出血などにより著しいQOLの低下、さらには致死的な結果に至ることもあるため十分な注意が必要である。ほかに代替治療がない場合も多いため、治療のメリットと危険性についての、十分な説明と同意が重要である。本治療を導入する際には直近の画像診断を用いて判断し、治療開始後も瘻孔の発生や前兆出血の有無、画像検査での腫瘍内のエア発生などを注意して観察し、このような徴候が見られれば休薬などの適切な対処をしなければならない。これらのリスクも考慮して分子標的薬の適応を考慮する必要がある。

2.髄様癌

 髄様癌はカルシトニン、CEAを分泌し、臨床においては腫瘍マーカーとして用いられる。通常、再発や遺残腫瘍があるときにはこれらが上昇し、その倍加時間(ダブリングタイム)は予後の指標になることが知られている。注意を要することは、これらの腫瘍マーカーのみが上昇していても明らかな病巣を指摘できないことがしばしばある点である。分子標的薬治療を導入するときには、これら腫瘍マーカーの上昇のみで判断せずに、画像検査で再発・遺残病巣を同定し、かつ進行性であることを確認する必要がある。

根治切除不能な進行性甲状腺癌に対する分子標的薬治療の適応患者選択の指針

(Ver. 4 2018年9月26日)

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根治切除不能な進行性甲状腺癌に対する分子標的薬治療の適応患者選択の指針

文献
1. Schlumberger M, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2:356-358, 2014
2. Brose MS, et al. Lancet. 384:319-328, 2014
3. Schlumberger M, et al. N Engl J Med. 372:621-630, 2015
4. Miyauchi A, et al. Thyroid. 21:707-709, 2011
5. Ito Y, et al. Endocr J. 61:821-824, 2014
6. Tahara M, et al. Front Oncol. 7:25, 2017
7. Wells SA Jr, et al. J Clin Oncol. 30: 134-141, 2012

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